2019年1月31日 NPO法人
今回のインタビュー相手
そんな板倉さんに現在のNPO法人を立ち上げた経緯や、自らホームページ作成の勉強を始めた理由についてお聞きしました。
もくじ
西洋古書の修復と製本修復の講座を中心に活動
(板倉)NPO法人「書物研究会」を運営しています。主に西洋古書の修復の仕事と、製本修復の講座を行っています。
修復の依頼は図書館や大学からが多く、講座に申し込まれる方は図書館関係の方が多いですね。
また、昨年はクラウドファンディングに挑戦して、『図書の修理とらの巻』という本を出版しました。現在は、この本の続編も書いています。
お話を聞くインタビューアーの河本さん
(板倉)グーテンベルグが活版印刷技術を発明したのが1400年半ばと言われていますから、それ以降の本を修復しています。
1850年ぐらいまで本はほぼ手作業で作られており、まったく同じ本はありません。そこに値打ちがあります。
これらを“古版本”といい、この古版本の修復を手掛けています。私たちが修復する本のほとんどがヨーロッパの本ですね。
Q.ヨーロッパにはよく行かれるのですか?
(板倉)年1、2回は渡欧しています。古い時代と同じ製法で作られた紙は、ヨーロッパで購入することができます。1700年代の製法で今も作られています。ヨーロッパに行ったときに材料を購入します。修復用の紙や革などは高価で、入手も困難です。
また、材料だけではなくて参考文献を購入したりもします。見学したい図書館があれば、事前に依頼しておくことも。スイス留学のときに一緒に学んだ友人が各国にいます。誘われて、国際会議に出席することもあります。会議で知り合いができたり、人を紹介してもらったり、世界各国に知人がいます。
ドイツで購入したという製本の歴史の本
(板倉)いいえ、1500年頃の本は上質な手すきの紙が使われているので、それほど劣化していないんです。
表紙もいい革が使われていて、良好な状態のものが多いですね。産業革命以降は、機械化されて紙質などが悪くなってきました。100年〜200年前の方が劣化は激しいですね。
修復技術についてお話しする板倉さん
(板倉)本の修復とは元どおりに直すことですが、新品と同じようにすることではありません。
腐食して一部が取れている場合、新しい革を補てんし、その上に元の革を張り戻します。文字が抜けている場合はそのままにします。推測して補筆してはいけません。それは修復する人の権限ではありません。単語を見ると予測はつきますが書きません。
Q.本を新品のように綺麗にすることと修復することは違うのですね。
(板倉)はい。本の修復は、読めるように元の状態に戻す努力することです。きれいにするとか、新品にするとかではありません。
ページの余白に書き込みがあるときも、落書きと考えて安易に消してはいけません。落書きかもしれませんが、持ち主が何かを書いたかもしれない。何かがはさまれている場合も元のページに戻しておきます。そういうことが大事で、修復する人が勝手に判断して変えてはいけません。
本によっては昔、誰かが一度修復していることもあります。昔の人は、やり方が決まっているわけではありませんから、ページが切り取られていることもあります。それをどのように修復するのか、難しい判断が要求されることもあります。国際的なガイドラインがありますから、そこに則った修復を行うようにしています。
ヨーロッパ(西欧)の古書を中心に修復
工房内の本棚 本の歴史や変遷などに関する参考書が並んでいる
Q. なぜ日本の本ではなく、ヨーロッパの古版本の修復が中心なのですか?
(板倉)バブル期のときに、日本がヨーロッパからたくさんの本を買っており、日本の大学図書館に残っていることが大きいですね。また、あまり知られていませんが、第一次世界大戦でドイツが負けたとき、本が戦勝品として日本に入ってきています。旧帝国大学にも所蔵しており、書庫の奥にヨーロッパの本が眠っています。
ただ、本の存在が日本の図書館で忘れ去られていることも多いのが現状です。ある大学の先生が研究用の書物を探すために外国に問い合わせてみると自分の大学の書庫にあった、というエピソードもよく聞きます。最近では、耐震補強工事をきっかけに古版本の存在が明らかになることもよくあります。図書館では日々の業務に追われて、古い本の修復まで手が回らないようです。
(板倉)本の歴史は日本とヨーロッパではまったく違います。日本の昔の書物は基本的に読み物です。江戸時代では滑稽本が流行りましたし、本は楽しむものでした。
対して、昔のヨーロッパの書物といえばバイブル(聖書)で、宗教が関係しています。当時の本は貴重でした。
紙は中国からイスラム圏、ヨーロッパへ伝わったと言われていて、14世紀には紙の製法がヨーロッパ全土に広まったそうです。映画にもなりましたが、小説『薔薇の名前』は14世紀の北イタリアの教会の図書館を舞台にしたミステリーです。読んではいけない書物の存在から殺人事件が起こります。このストーリーからもヨーロッパの人たちの書物へのリスペクトの高さがわかります。
ヨーロッパと日本では書物に対する文化的背景がまったく異なっているんです。
Q.ヨーロッパでは、本は貴重なものなのですね。
(板倉)はい。ヨーロッパの図書館には修復室があって、専門技術者であるコンサバター(修復管理者)がいます。
図書館は本の保管だけではなく、展示も行います。展示の時に古い本が破れていたら直す必要があるので、図書館には修復士がいます。
日本の図書館は本格的な展示を行うことはあまりありませんね。図書館の奥にあって、誰の目にも触れられない古い本がたくさんあります。
書物修復の仕事をされたきっかけを伺いました
スイスの製本修復の学校
Q.現在のお仕事を始められた経緯を教えてください。
(板倉)40年以上前に「大阪編集教室」という教室の製本コース開講を受講したことがきっかけです。
当時、私は専業主婦でした。出版社に勤めていた夫に「製本コースを受けてみたい」と言うと、夫も興味をもったので一緒に申し込んで一期生になりました。受講料は当時の物価で6万円でしたので結構高かったんですけどね。週2回通い、石井力太郎先生に製本装幀の技術を学びました。
Q. 製本コースを受講されてみてどうでしたか?
(板倉)講座では、有名な小説家など第一線で活躍されている方とお話しする機会もあって、楽しかったですね。学んだのは製本技術ですが、本の修復を頼まれることもよくありました。
本の修復を正式に学んだことはなかったので、そのうち「本の修復が本当にこのやり方であっているのだろうか。きちんと勉強したい。」と思うようになり、修復技術を学べる学校を探したんです。
(板倉)そうですね。インターネットが発達していない頃で容易には探せませんでした。そのうち自分の学びたい内容は、日本にはなく、海外の学校にしかないことがわかりました。
それでまずは英語力をつけようと英会話教室に通ったんです。その後、アメリカの図書館に視察に行きたいと思い、図書館宛に手紙を書いてアポイントメントをとりました。そして1986年に渡米しました。
ーー当時単身で渡米!すごい行動力ですね。
(板倉)自分のやりたいことをやっていただけですけどね(笑)
アメリカ東部の図書館を視察すると、修復士という職業があることを知りました。「もっとこの仕事をしたい!」と思い、今度は世界中の修復の学校を調べました。そして、1988年、40歳のときスイスの製本修復学校(セントロ・デ・ベル・リブロ スイス)に入学できました。
世界各国の人が学びに来ていました。1クラス7人で、基本的な技術をもつ人が入学対象者なので、図書館員などプロの方がほとんどでしたね。
Q. 当時修復した本の事を覚えていますか?
(板倉)はい。覚えています。こちらは教材として現地のスイスで購入した本です。教会関係の本で、イタリア語で書かれています。1700年代の本というのはわかりますが、虫食いがあって具体的な年代はわかりません。
1ページ目のタイトルのところが2色使われているものは古い本なんです。この絵柄はプリンターズマーク。印刷業者のオリジナルのマークで、今でいうロゴマークですね。
板倉さんがスイスの学校で修復した本
元々この本は表紙が破れ、本体は外れていました。解体して綴じ直しました。扉のページがちぎれていたので、新しい紙を形成し、元の紙と一体化させています。ページの周囲が白っぽいのはそのためです。表紙は新しい革を貼って、上から元の革を貼り戻しています。
古い表紙を取り去って、新しい表紙に変えてしまうのは簡単ですが、台無しになります。元の本には戻らず、修復ではありません。この点を多くの方に理解してもらいたいですね。
海外から帰国後、製本修復の教室を開講。2004年にNPO法人設立へ
取り上げられたインタビューや自社パンフレットの数々。主要新聞にも掲載されたことがある。
Q.帰国後、まず何を始められたのですか?
(板倉)海外の図書館で学んだ修復技術を広めたいと思い、製本修復の教室をつくろうと考えました。
初級・中級とカリキュラムを組んでさっそく募集したところ、20人ほどの方が来てくれました。広告で募集したわけではありませんが、以前、公民館で製本技術を教えていたので、その流れで人が来てくれたんです。
そして、1990年にはドイツ・デュッセルドルフの製本所で研修し、帰国後は初心者でも学べる製本講座を整えて、本格的に教室を運営していきました。教室運営と同時に、1991年に「書物の歴史と保存修復に関する研究会」を松村恒先生と立ち上げ、研究事業と情報発信を行ってきました。
Q.それから今のNPO法人を設立されたのですか?
(板倉)はい。10年ほど研究会と教室を活動してきて、この研究会と教室を統合させたNPO法人を設立しようと決めました。そして、2004年にNPO法人「書物の歴史と保存修復に関する研究会」(略称・書物研究会)を設立しました。
本の修復講座について伺いました
Q.修復の講座について教えてください。
(板倉)専門的な製本修復技術と、図書館業務の中の一般的な修復技術を教えています。現在は10クラスほどあります。私以外に講師は数名います。15年ほど教室をやっていますから、そのときから学びに来ている方もいます。「図書修理マイスター養成講座」といって図書館との共催で行なっている講座もあります。
NPO法人 書物研究会新館。週末は全国の受講生が来られる
(板倉)図書館の仕事に携わっている方が多いですね。他府県の方も多くて、東京、広島、名古屋、九州方面など各地から来られています。
函館から飛行機で通われていた方もいました。交通費がかからないように、遠方の方は土・日で2クラスの受講も可能にしています。教室の2階で宿泊できるようにしています。
(板倉)大変なことは多いですね。まず、教材として修復をする傷んだ本の準備がなかなかできません。
現在は、ある古書屋さんに協力していただき、傷んだ本があれば保管してもらっていて、教材用の本にあてています。
Q.講座ではどんなことを意識して教えられていますか?
(板倉)元の本の価値を生かしたまま修復できるように教えています。修復は細かい作業で、時間がかかります。
新品にしてしまうと、古版本の価値が半減します。新しく製本するのは簡単ですが、元の本のまま修復することは難しく、専門技術が必要です。その違いをわかる人をたくさん育てたいと考えています。
Q.受講後に生徒はどのように修復技術を役立てているのでしょうか?
(板倉)勤務先の図書館で、習得したスキルが役立っていると思います。図書館員が直接修復を手掛けなくても、発注する製本業者さんに正しく指示できることも大事です。
「ここをこんな風に修復してください」とか「古い表紙は捨てないで」などと指示できる人をたくさん送り出したいと思っています。製本業者が独自の技術で修理し、古い表紙を取り去ったり、新しい表紙に付け替えたりすることがないように。
2018年からホームページの作成管理も代表自ら実践
Q. 現在Webスクールに通われていますが、既にホームページはあるのに何故ご自身でWebの勉強をしようと思われたのですか?
(板倉)長年、ホームページを担当してくれたスタッフがやめてしまったことがきっかけです。以前は、私がコンテンツを考えて、ネットの作業はその人がすべて引き受けてくれていました。
スタッフが辞めてから代わりに担当してくれる人を探しました。他の方に依頼したこともあります。しかし、うちの仕事内容をまったく知らない方だと「変えてください」と指示したところは変わりますが、関連箇所の修正まではしてくれません。こちらで1から全て伝えないといけない状況で、次第に私のストレスがたまり、自分でやろうと決心したんです。
(板倉)はい。最初は大手のWebスクールに申し込みました。ただ結果的に、そのスクールの学びはまったく役立ちませんでした。私は学ぶと決めたら集中しますから、ほぼ毎日通いました。それなのに全然役立ちませんでした。
大手のWebスクールでは、カリキュラムどおりにソフトの操作や技術を教えてくれるだけで、自社のホームページを更新するために必要なことと結びついていなかったんです。
Q.今通われているWEBスクール(WEBST8)を知ったきっかけは何でしょうか?
(板倉)ホームページをどうしようかと色々考えてしている時に、ある人から「ワードプレスがいいですよ」と教えてもらいました。「ワードプレスって何?」と思い、調べるとオープンソースで良さそうでした。
ワードプレスでリニューアルしようと思いつきました。そこで今度は、ワードプレスを学ぼうと「WEBスクール 大阪」や「ワードプレス 講座」など色々調べているうちに、こちらのWEBスクールを見つけました。1日のワードプレス講座があったので、まずその講座に参加してワードプレスの使い方を学ぶことができました。
ただ、その頃は忙しくてその時にスクールには申し込みませんでした。しばらくたって、知り合いのデザイナーさんに自社ホームページをワードプレスにリニューアルしてもらいました。ただ、中身の構造がどうなっているか理解できず結局自分でなかなか触ることができずモヤモヤしていました。
(板倉)昨年末にこちらのWebスクールでSEO対策講座もしていたので、Web集客にも興味がありそちらに参加しました。
うちのホームページを立ち上げた15年前は、ホームページも少なく見つけてもらいやすかったんです。
でも、最近は誰でもホームページをもつ時代。知らない人にうちの活動を知ってもらい本の修復に興味をもってもらうには、SEO対策を考えないとダメだと思ったんです。
それで、改めて作り方も活用方法も学びたいと思い、そのままスクールに申し込みました。
Q.WEBスクールに通ってみた感想は?
(板倉)以前通ったWebスクールと比べると、格段にいいです。このWebスクールは「神様!」といえるぐらいですね(笑)。 このスクールは、やりたいことをすぐ聞けて、進み具合がとても速いのでストレスがたまりません。
ホームページの元となる文章や画像などの素材は事前に全部作って、レッスンでは作業する感じで進めています。元のホームページを変えるのは大掛かりになるので、まずは、ワードプレスで小さな出店をつくって、扱いに慣れながら整えていっています。
まだ、受講後2ヵ月目ですが、「貴重書修復の世界へようこそ」というサイトを5ページほどで作りました。今はサイト「図書修理マイスターの部屋」を7、8ページで作ろうと進めています。それができたら、練習のためにサイトをもうひとつ作りたいですね。
小さなサイトを作りながら、扱いに慣れたら、今のNPOのホームページの気になるところを整えていきたい。当面はもう少し学びながら決めていきたいと考えています。
最後に一言お願いします
NPO法人 書物研究会 板倉正子さんとコピーライターの河本さん、WEBST8の松本
本の修復という珍しい講座なので、探している方は多いと思います。その方々が見つけやすいようなホームページを作っていきたいと思います。小さなNPO法人にとって、ネット活用は重要です。集客に強く、安価ですから。
いつかはNPO法人も他の方に引き継ぎたいと思っています。そのためにもいろんなことを整えていきたい。ホームページもそのひとつです。目途がつくまでがんばります。
お話ありがとうございました!これからも引き続きよろしくお願いいたします!
インタビューにご協力いただきましてありがとうございました!
西洋古書の修復という非常に珍しいお仕事内容をはじめ、西洋の本の歴史や文化的背景を聞けてとても勉強になりました。
引きつづきホームページの作成と更新も頑張りましょう!!
2019年5月追記)このたび2冊目の本出版のため、2回目となるクラウドファンディングに挑戦されています。クラウドファンディングの内容については【第2弾】傷んだ本の修理技法書を作り、本の寿命を守りたい。をご覧ください。
NPO法人 書物の歴史と保存修復に関する研究会(略称・書物研究会)
書物の歴史と保存修復に関する研究会は技術者養成講座の開催,一般向け講習会,海外専門家の招聘や書物及び古典資料の保存修復事業,書物保存修復に関する調査及びコンサルティング事業,情報の収集及び提供事業を行うNPO法人です。
今回のインタビューアー
河本樹美(コピーライター)
大阪のコピーライター事務所
オフィスカワモト
今回の企画・撮影
松本 慶(スクール代表)
大阪のWebスクール・HP作成教室 WEBST8